弥生三月、春が巡り、三百四名が巣立ちの時を迎えました。本日この佳き日、PTA会長 田邊美穂子様、久徴会会長 土井豆勝磨様はじめ多数のご来賓の皆様のご臨席のもと、令和4年度第74回卒業証書授与式を挙行できますことは、卒業生はもとより、私たち教職員及び在校生にとって大きな喜びであります。高所からではありますが、心からお礼申し上げます。


 保護者の皆様、誕生の日から早十八年、皆様の腕の中から巣立つ日を迎えたお子様の姿に、感慨一入のことと存じます。お子様は立派に成長し、逞しい大人へと進化しております。成長と卒業、心よりお祝い申し上げます。


 ただいま卒業証書を授与した卒業生の皆さん、卒業おめでとう。「卒業」とは、「業をおえる」ことですが、教科学習に限らず学び得た全てが業であり、SSH事業での課題研究等の探究的な学び、GRITizm NOTEや面談等を通して轍を残してきたキャリア教育、学校行事や部活動、生徒会等の課外活動を含め、3年間に経験・会得したその全てが業なのです。人により濃淡や習得度に違いはあっても、業を全うし終えたという意味では皆同じです。卒業は、「与えられた」のではなく、自ら「手に入れた」、進路実現を可能にする権利であり、資格です。皆さんは、この歴史と伝統ある出雲高等学校での業を立派に終え、晴れて次のステージに向かう有資格者であり、未来へ雄飛する巣立ち人です。皆さんの卒業を、教職員一同、心より祝福します。


 さて、皆さんが成人となって向かう次のステージは、誰にとっても未知の世界です。保護者の方々をはじめとする大人が辿ってきた途とは根本的に異なる、世にいう常識がすぐに変わってしまうような変化の激しい世界に身を置くことになります。AI(人工知能)が凌駕し、人間の尊厳が脅かされることも増えるでしょう。温かく守られた高校時代など比べものにならないほどの苦難を味わったり、逆に新たな価値や仕組みによる利便性や快楽を堪能できたりするかもしれません。そんな、誰にも予見できない、新たな世界に向かっていく皆さんにエールを込めて、高校生活を例示しながらここで一つの提案をさせていただきます。

 それは、「加減乗除の観点で人生を捉えよう」ということです。幼い頃から慣れ親しみ使ってきた、あの算数の基本です。

 +(足す)は、加えること。幼児期から足し続けてきた知識や技能、わからなかった、できなかったことがわかりできるようになったこれまでを振り返り、授業や読書、研究や練習を通して加えてきたことを思い起こしてください。これからも学び続け、成長の足し算を継続してください。

 -(引く)は、省くこと。皆さんも、集団生活や協働作業の中で、単に足すばかりでなく、時には整理し省いたり引いたりしてきたはずです。社会で必要な「折り合いを付ける力」も、総合的見地からあえて一歩下がる、一種の引き算に近いと思います。「間引き」や「駆け引き」という言葉もある通り、目的達成のために、或いは人間関係の円滑化のために、勇気を持って引く姿勢も忘れないでください。

 ×(かける)は、時に莫大な効果を生み出します。倍増、三倍増などのように、元あるものを飛躍的に向上、拡大させます。教科学習と課題研究、学習と部活動、学校と家庭等、各種の掛け合わせで成長してきた皆さんならわかると思います。多様な意見のぶつかり合いや受験勉強等での仲間との切磋琢磨など、他者や複数の領域を掛け合わせ、相乗効果で向上させたあの経験を、これから進む社会でも活かしてください。ただし、注意したいのは、マイナスをかけないこと。プラス、ポジティブ思考で、効果的な掛け算を展開してください。

 ÷(割る)は、分けること。分担や分配、分け持ち、分け与えるに通じます。共同生活の中で、分け合った経験は多いと思います。喜びも悲しみも楽しみも苦しみも、仲間と共に分け合ってきたからこそ迎えた今日です。特に苦しいことは一人で抱え込まずに、時には腹を割って話し合いながら調整し、いかなる荒波をも乗り越えてください。「割る」はマイナスではありません。次なるプラスを誘発する意図的仕掛けです。

 例年の卒業生とは大きく異なった高校時代。マスクが必需品となり、消毒・換気・黙食が加わり、また臨時・特別・制限といった措置が突発的に加わりもした3年間。試合やコンクール、関西研修や海外研修等が中止となり、貴重な体験の機会が軒並み奪われ、引かれ続けた3年間。他者との交流による掛け合わせや腹を割っての話し合いも制約を受けたはずなのに、久徴祭や県総体、文化活動等で、自立し、協働し、挑戦し、本校の歴史に新たな1ページを加えてくれた皆さんを私達は忘れません。マイナス要素がいかに加わっても、プラス要素がいくら引かれても、挫け諦めることなく、苦労は仲間と分け合い、喜びは掛け合わせて、困難な3年間を乗り越えてきた皆さんなら大丈夫です、次なる時代の担い手、イノベーション人財としてきっと活躍してくれるでしょう。高校在籍中の全てがコロナ禍にあった74期生、時代が積み重なりいつか振り返った時、必ずや思い起こされる歴史的な卒期となるにちがいありません。各種の制約に打ち克ち、伝統をしっかりとつなげてくれた皆さんに心から感謝し、讃えたいと思います。見事な卒業です、ありがとう、そしておめでとうございました。


【卒業生への呼びかけ : 思いの表現にかかる挑戦】(即興 原稿なし)

  • 概要:伝えたい思いや考えは、表現行動があってこそ伝わるもの。一堂に会した参列者に、今の思いを行動で表してほしい。
  • 卒業の喜びや寂しさ、保護者や先生、友人への感謝、後輩への激励、自分自身の覚悟など、立つもよし、振り返るもよし、手を振るもよし、30秒後の10秒で、各自表現してほしい。ただし、声は出さないこと。この場でできないなら、この後のHRや退場の時に。或いは帰宅してから、手紙やメッセージカードを用いてでもかまわない。今の素直な思いや意志を遣り、残そう。

ありがとうございました。皆さんは、意志や思いを確かに表現できる立派な大人であり、誇るべき「主体的行動人」です。 


 結びに、三十八年の教員生活を送る中で、餞(はなむけ)として常に贈り続けている自作の歌を、卒業する皆さんに贈ります。
(歌)友があり 師があり そして我がある 活かし活かされ 人は生きゆく

 出会った友人、先生、保護者をはじめ、関わっていただいた全ての方々への感謝を忘れず、必ずや「活かす」人になってください。    以上、卒業する三百四名の大いなる未来に幸あれと祈り、式辞といたします。


令和五年三月二日   島根県立出雲高等学校 校長 多々納 雄二

 

 

令和4年度 島根県立出雲高等学校 卒業証書授与式  校長式辞