困り事への対応 ~共生社会の実現をめざして~

 

 1年で最も長い2学期の終業を刻む日となりました。長引くコロナ禍にあって、休業措置をとったり部活動規制があったりと、生徒の成長を促進する教育活動が十分に実施できなかった面は否めません。わけても関西先端科学研修や海外研修といった体験的な活動機会が設定できなかったことは大いに悔やまれるところです。それにもかかわらず、本校の教育が様々な代替措置をとりつつ着実に実施できたのは、生徒や保護者の皆さんの理解と協力のおかげです。日々の授業による学習活動はもちろん、課題研究への取組、久徴祭をはじめとする学校行事、部活動や生徒会活動など、個々の挑戦と成長を実感できる機会に恵まれた学期となりました。生徒の皆さんをはじめ、保護者や教職員ほか、関わってくださった全ての方々に感謝の念で一杯です。ありがとうございました。

 さて、本日は「困り事への対処」というテーマで3点、情報提供を通して共に考えてみたいと思います。

 一つは、本校特有の「I-Room」について。保健室の前に「I-Room」があるのを知っていますか。昨年度、新たに設置した部屋・セクションで、専任の木下・梶山先生が常駐し、本校だけではなく出雲圏域の各高校での生徒の困り事に対応しています。命名には、「I」に多様な意味を持たせました。I(私)を大切に、eye(見守る目)と愛をもってinclusive(包括的)に、多様性に配慮した共生社会の実現をここIzumoでめざしていくとの意味を込めています。ここでは、主に学習や生活に関する生徒の個人的な悩み事や困り事の相談を受け、その対処方法を一緒になって考えていきます。既に学年を問わず何名かの生徒が、相談に訪れてくれています。誰にも打ち明けられずに我慢してきたことやどうしていいか分からず困っていることなどの相談が可能です。担任の先生や保健室の先生を通じてI-Roomにつながってもらえれば幸いです。誰一人取り残されることなく、誰もが生き生きと共生できる環境、アイ(~合い、愛)に満ちた学校を皆で協力して創っていきましょう。

 二つ目は、地域や社会における困り事について。先日、皆さんに協力してもらった出雲科学館のアンケート結果を見ました。記述意見には、高校での出前授業や科学館での理科学習を求める意見、イベントのアイデアを伝えるものが多く、科学館への関心の高さや高校との連携への期待の大きさが窺い知れました。そうした意見の中に複数あったのが、本年度第1回SSパワーアップセミナー講師であった吉藤オリィさんの講演をもう一度聴きたいというものでした。身体に障がいを持ち生きづらさを抱いている方々の困り感に寄り添い、遠隔操作ロボットOriHimeを発明し遠隔参加型カフェを設けるなど、できないことをできるようにしている、あの黒マントが印象的な方、対孤独の発明家です。7月の講演で伝えられた、できないで困っていることの解消、課題解決のできる「発明家」になろうとのメッセージが多くの生徒の心に残っているのでしょう。皆さんは、本校で課題研究に取り組んでいますが、テーマ設定に苦しんだり、研究意欲が高まらなかったりしているとの声も聞きます。そもそも、科学的研究や発明は人の疑問や困り事に端を発している場合が多いはずです。皆さんも、人や社会の困り事を意識した研究テーマを設定し、困り感解消につながる研究活動に取り組んではどうでしょうか。その研究が社会を動かすきっかけとなる、困り事解消に向けた一石となる、研究を通して力をつけ、いずれは社会を変革する人財になる、そんな希望を抱いて取り組んでくれると嬉しく思います。

 三つ目は、あるTV番組を見て感じた、困り事への対応について。日々何気なく過ごしていると、慣習・慣例・常識となっていることを中心に、その意義や価値を見過ごしたり、感覚が麻痺してしまったりすることが多々あります。便利な言葉、「普通」「当然」等を用いて、無意識に関心の枠から外してしまうなど、日常茶飯事ではないでしょうか。そもそも「普通」とは何か。何を基準に他と区別するのか。ジェンダー等にかかる人権問題、いじめ等に結びつく排除意識などは、自分なりの「普通」を基準に一方的に見る人に起こりやすいと思います。例えば、音は聞こえるのが普通、聞こえないのは異常といった感覚がありがちですが、聴覚に障がいのある人にとっては音のない世界こそが自然であり、むしろ普通ということを知る必要があります。手話にしても、聞こえる者が聞こえない方に対して「わざわざ使ってあげる」といった傲慢な姿勢ではなく、共通言語として用いる、つまり共生するための手段とする姿勢が大切と、現在放送中のTVドラマ「Silent」を見て感じています。口から発する音付きの言葉だけが言葉なのではない、手話しかり、筆談しかり、ジェスチュアーやサイン、表情やアクションも通じ合うための言葉として用いたい。聞こえるか聞こえないかよりも、区別して世界を異にするか、それとも共生していくかのほうが大切で、共生社会の実現に向かう個々の意識や姿勢が「普通」「普遍」である社会を望みます。本校でも、共生が共通意識である学校であるよう努めましょう。

 ここまで述べた3点、①I-Roomの活用、②課題研究の前向きな取組、③特別扱いしない共生の在り方について、今後とも皆さんと共に考え、探究し、取り組んでいきたいと思います。日常的な協力をお願いします。

 結びに、3年生の皆さんにエールを送ります。年明けての1月14日から大学入学共通テストが行われ、多くの人にとっての正念場を迎えます。志望校合格という目標に向かって、健康管理に気をつけ、できる限りの準備を行ってください。何よりも願いたいのは、この出雲高校で仲間達と共に成長してきた、今ある自分を信じ、自信を持って受験してくれることです。全力を尽くしてのそれぞれの成功を祈っています。

 新型コロナウイルス感染症については、第8波の到来などまだまだ予断を許しません。引き続き感染症予防を徹底し、他者へ配慮し、感謝の気持ちを持って、普段通りの家庭・学校生活が続けられるように、各自が自覚をもって行動してください。1月10日に元気で会いましょう。 以上、新年明けての再会の日を心待ちにし、終業式の式辞とします。

令和4年12月23日  校 長 多々納 雄二

 

令和4年度2学期終業式 式辞